セミナーリストをMAに入れるだけではもったいない――。大手通信事業者のKDDIは、2022年3月に開催されたアイティメディア主催のウェビナー「Security Week 2022春」に協賛して大量のセミナーリストを入手しました。しかし、その約9割が自社講演以外のセッションを視聴した「他社講演リスト」だったため、「ABMデータ」に基づいてフォローアップを行ったところ、自社セミナーへの参加者と営業へのトスアップが増えたといいます。「ABMデータ」とは何なのか、KDDIが行ったフォローアップの具体的な方法をご紹介します。
導入背景と課題 | 「他社講演リスト」の有効利用と具体的なフォローアップ施策 |
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導入内容 | ABMデータ |
利用による効果 | 自社セミナーへの参加者と営業トスアップ件数が増加 |
近年はコロナ禍ということもあり、オンラインセミナーが活況です。参加者もオンラインイベントに慣れたこともあり、主催側からすれば比較的まとまった参加者が集まるようになりました。ですが、参加者リスト(セミナーリスト)を活用する側の対応は、以前と変わっていないのが実情のようです。
アイティメディア主催のウェビナーに協賛いただいたお客様にリストの活用方法を尋ねると、1.自社セッションに参加いただいた方にお礼を兼ねてニーズをヒアリングする「謝辞網羅型」、2.企業名や職種、アンケートの内容を見て気になる方だけピックアップしてフォローする「ピックアップ型」、3.MAやSFAに入れてフォローしない「放置型」のいずれかに該当するようです。
自社セッションに参加した方やアンケートに回答いただけているリストへコールする場合は、理由が明確でフォローしやすいのですが、オンラインになってアンケートの回答率は低下傾向にあり、また、複数社が協賛するウェビナーの場合ですと、自社講演以外を視聴している方もリストに含まれていることもあって、アプローチできるリストが少なく、大部分をナーチャリングプロセスに任せるケースが多いのではないでしょうか。ナーチャリングを否定するものではありませんが、少し残念な使い方のように思います。
では、複数社が協賛する集合型ウェビナーのリストの中で、自社講演以外を視聴している方はどのくらいいるのでしょうか?
こちらは、KDDIが実際に入手したアイティメディア主催の集合型ウェビナー「Security Week 2022春」のリスト内訳です。青い部分は、KDDI講演の参加申し込み者で、赤い部分は、KDDI以外の協賛企業による講演を参加申し込みした方です。 今回は、プラチナプラン(全セッションの参加者リストを供与 )への協賛であったため他社の講演申込者が全体の約9割を占めていました。「他社講演リスト」には、個人情報しか掲載されておらず、どの講演に申し込みしたのか、実際に参加したのか、アンケートに回答したのか、その回答内容はどうだったのかといった詳しいことは分からないようになっています。
「他社講演リスト」の中にターゲットとなるリードが含まれていることもありますが、どのようにコールしたらいいのか分からず、結果的に個別フォローできずにMAなどに取り込むのが実情ではないでしょうか。
アイティメディアの調べによると、IT製品の導入に関与した方の平均人数は、6.3名でした(*)。これはその製品が、ITインフラや部門間に渡るものになればなるほど増える傾向があります。セミナーへ参加して情報収集する方が、企業におけるIT製品の導入検討活動の一端を担っていると考えれば、セミナー参加者の関心事項が、所属する組織・企業の持つ関心事項に重なっていると考えるのが自然でしょう。
*「IT製品の購買プロセスに関する調査レポート」より。調査企画:アイティメディア株式会社 調査実施:株式会社マクロミル 2020年12月実施 N=325
アイティメディアでは、TechTargetジャパンやキーマンズネットなどで累積登録者110万人以上の会員の行動履歴を日々蓄積しており、そのデータを活用したマーケティング支援サービスを提供しています。その中のひとつである「ABMデータ」は、その行動履歴を所属する企業毎に集計し――例えば「ゼロトラスト」といった特定のテーマにおいてどのような情報収集活動を行っているかを集計して――企業毎の興味度合いを可視化した情報を提供しています。
「ABMデータ」で使っているデータは、アイティメディア「ABMレポート」のものです。ウェビナーのテーマに合わせたセグメント(関心分野の塊のようなもの)と、申込者が所属する企業で「ABMレポート」を作成して、申込者の個人情報シートと企業名で紐づけて記載して納品しています(「ABMレポート」についての詳しい説明は、こちらを参照ください。)
企業の関心分野は、個人の行動履歴がベースとなっていますので、これを使うことで「他社講演リスト」であっても企業として何に関心があって、導入検討中フラグのどれが点灯しているかが分かるようになっています。
KDDI株式会社
ソリューション事業本部 ソリューション事業企画本部
マーケティング部 チャネルマーケティンググループ
林 千乃氏
KDDIが実際に行った「他社講演リスト」へのフォローコールでは、「ABMデータ」をどのように使ったのでしょうか。
KDDIでインサイドセールスを担当する 林氏によると、「他社講演リスト」へのコール目的は、自社で行うセミナーへの「誘引」になるそうです。KDDIでは、ナーチャリングファネルの入り口となる「他社講演リスト」に含まれる視聴者は自社の製品・サービスのことを知らない段階にあると仮定し、次のステージを自社セミナーの視聴としているためです。これは、自社セミナーに参加することで理解が進み、その後の案件化がしやすいと言います。一方で「自社講演リスト」へのコールは、参加したことの謝辞や要望・意見を伺う形となりますので、ナーチャリングファネルのステージが異なる点に注意して設計します。
具体的な手順を見ていきましょう。
手順1:コール対象者を絞り込む
インサイドセールスの目的は新規案件創出とのことなので、競合やIT製品ベンダー、現在商談進行中などの企業に属する対象者を除外します。
手順2:「ABMデータ」の「関心分野」に自社商材が登場する方を抽出
ABMデータに掲載されている関心分野の1位から3位までの中に、自社商材とマッチする分野が含まれている対象者を抽出します。ここでいかに多くマッチングできるかが非常に重要です。ベースとなる「ABMレポート」に、自社が取り扱う商材に関連する「分野」がきちんと含まれている必要があります。
手順3:コール前に「ABMデータ」の「関心分野」を確認
最後は、フォローコールする際の手順です。「他社講演リスト」には、部署名や職務といった個人の立ち位置の情報に加えて、「ABMデータ」による企業としての「関心分野」が付与されています。それを参考に想定されるトークストーリーを組み立てコールし、セキュリティ担当者であることを確認してから、先の「関心分野」から話題を振って課題感を探りつつ、自社セミナー参加意思や商談案件の有無を確認します。
実際の会話については『セキュリティの「関心分野」は複数あり、オペレータのスキルも均一でないため、定型のスクリプトに落とし込むよりは、関心分野と各オペレータのスキルに合わせてリードを割り当てるように工夫するとよい』とKDDIの戸邉氏はアドバイスします。
また、定性的な感想ではありますが、オペレータからは、『「ABMデータ」の「関心分野」で、ご本人や企業の興味がある程度絞り込めることで、コールする前の事前準備や対応のシミュレーションがしやすくなった』とのコメントをいただきました。コールの現場からは、少しでもトークのヒントとなる情報があると助かるという声もいただいており、心理的な支えになることも期待できます。
今回KDDIでは、「ABMデータ」の「関心分野1位から3位」の情報と自社商材とをマッチングさせる形で活用いただきましたが、他にもさまざまな情報があります。例えば、順位の「変化」です。
「ABMレポート」では、企業の関心度合いを独自のスコアリングモデルで相対的な順位を出していますが、定常的に情報を集めている大企業が上位に入る傾向があります。そこで前月順位との差分を「変化」でみると、大きな動きが実は社内で導入検討活動が始まったことを示していることがあり、話を聞きたいお客様を効率的に見つけるタイミングキャッチの役割を果たしています。特に「新登場」の企業をフォローすると商談機会が取れやすいという報告もあります。
「導入検討関連フラグ」も有効です。「導入予定1年以内の有無」フラグの他、「経営・経営企画部の有無」や「課長以上の役職者の有無」、「予算の有無」などのフラグが点灯していると、実際の導入検討プロジェクトがある確率が高まる傾向が強く、案件発掘の指針として有効活用できます。
林氏は加えて、『導入検討関連フラグをうまく使って1社1社きちんとターゲティングしてアプローチをかけていけば、さらにリストを有効活用できたのでは』と話してくれました。例えば「関心分野」で対象を絞っておき、関連するセミナーへのメルマガ集客に活用するなど、データ活用のイメージを膨らませていました。
アイティメディアの「ABMデータ」は、TechTargetジャパン/キーマンズネット/@IT /TechFactoryなどにおける読者の行動履歴をもとに作成した「ABMレポート」から必要な部分を抽出して提供するデータ商品です。セミナーリストやMA(マーケティング・オートメーション)などの個人情報に紐づけることで、企業や組織としての興味関心がどこにあるのか、どういったベンダーに接触をしているのか、閲読したベンダーコンテンツや「導入検討関連フラグ」に応じてアプローチの優先順位を決めたり、課題感の炙り出しに役立てることができます。
「ABMレポート」についての詳しい説明は、こちらを参照ください。
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