Sansanはなぜデジタルマーケティングに強いのか? 担当者が語るリードナーチャリングとリード管理の工夫
クラウド名刺管理サービス「Sansan」や、クラウド請求書受領サービス「Bill One」などを提供するSansan。同社は、BtoB領域においてデジタルマーケティングに強い企業としても知られている。使いやすく良いサービスを、必要としている人に届けるため、同社ではどのようにデジタルマーケティングを進めているのか。「Sansan」のリード管理やナーチャリングを担当し、現在は「Bill One」の認知拡大やナーチャリングに従事する、ビジネス統括本部 マーケティング部 プロダクトマーケティングストラテジーグループ 兼 メディアプランニンググループ 大槻千智氏に聞いた。
Sansan ビジネス統括本部 マーケティング部
プロダクトマーケティングストラテジーグループ 兼 メディアプランニンググループ 大槻千智氏 |
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コロナ禍でより注目が集まるリードナーチャリング
BtoB領域のマーケティング活動において「リードジェネレーション」(見込み顧客獲得)は重要なファーストステップであり、実践している企業も多い。展示会やセミナーといったイベントの集客やホワイトペーパーなどのコンテンツを活用し、自社の製品やサービスを利用する可能性があるユーザーを集める活動だ。
直近、ようやくオフラインイベントに復活の兆しがあるが、コロナ禍でオフラインの展示会やセミナーなどが実施できなくなり、これまで通りのリードジェネレーションが行えなくなった時期が続いた。そんな中、リードを獲得することも引き続き重要であるが、より注目を集めているのがリードジェネレーションの次のステップである「リードナーチャリング」(見込み顧客育成)だ。獲得したリードにコミュニケーションを取ってニーズが醸成するように働きかける活動である。企業の中には、積極的にリードナーチャリングに取り組みはじめたものの、なかなか商談に結び付かなかったり、手応えがいまひとつ感じられなかったり、悩んでいるところも多い。
こうした企業の悩みに対し、リード管理やナーチャリング業務などを担当してきた大槻氏は次のように話す。
「日常業務においては、現在の業務がいかに商談につながるのか、数カ月後にどのような数字になるのか、そういうことを意識しながら仕事をしています」「会社としてのSansanや提供するサービスを認知していただいた方に、さらに興味を持ってもらうにはどうすればいいか。そこからの関係をどのように構築していくのかといったことを考えています」
「デジタルマーケティングの領域では、CPA(Cost Per Action:顧客獲得単価)をいかに下げて効率よくリード獲得するかといったことに向き合いがちですが、リード獲得後のナーチャリングや、インサイドセールスが架電する後工程のことも想定し、いかに事業貢献を最大化するかを考えてPDCAを回していくことが大切だと思っています。」
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大槻氏は2018年に新卒でSansanに入社して以来、一貫してデジタルマーケティング分野に携わってきた。リード管理やナーチャリングを担当するリードストラテジーグループで主にナーチャリングを担当した後、メディアプランニンググループにてTVCMやタイアップ記事などを通じた認知拡大施策を担当。現在はクラウド請求書受領サービス「Bill One」の認知拡大施策やナーチャリング施策を主務としている。
Sansanのマーケティング全体像とKPI
ここでSansanにおけるマーケティングの体制や進め方を見ていこう。
ビジネス統括本部マーケティング部内には、リードジェネレーションを担当するグループ、リード管理・ナーチャリングを担当するグループ、コンテンツを企画制作するグループ、イベントを企画実行するグループ、大規模カンファレンスを企画実行するグループなどがあり、合計で40〜50名ほどが在籍している。
マーケティング施策の全体像は図の通りだ。
Sansanのマーケティング施策全体像
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Sansanでは複数のグループがデジタルマーケティングを推進し協力して顧客に向き合っているが、それぞれのグループのKPIはどのように設定しているのか。
「基本的なKPIはリード数や商談数です。ISが設定する商談に、各グループの施策がどれぐらい貢献しているのかを見ており、ナーチャリングでいえば、『ナーチャリング経由のリードから、どれだけ商談が発生しているか』を数値として見ています」(大槻氏)。
リードの流れとナーチャリング手段
今回は、マーケティング全体の中でもナーチャリング施策に焦点を当てて取り組みを紹介する。まずオンライン・オフラインチャネルで展開しているセミナー、イベント、Web広告などでリードを集め、すぐに商談につながりそうな「HOT」リードと、まだニーズが熟していない「非HOT」リードに分ける。HOTリードはそのままインサイドセールス(IS)に渡して商談化へと進めていき、非HOTリードに対してはメールやDMなどの手段でナーチャリングしていく。なお、商談工程で失注した場合も、ナーチャリング対象リードとなる。
非HOTリードのナーチャリングの手段としては、大きく分けて4つのメールがある。まず、制作したコンテンツに適合するセグメントに送付する「単発メール」、リード属性のセグメント別や興味・関心テーマ別で送付する「シナリオメール」、セミナーやイベントへの案内を出す「集客メール」、それに紙のDMだ。単発メール、シナリオメール、集客メールはマーケティングオートメーションツール(MA)を活用し、顧客ごとに適切なコミュニケーションを取れるよう工夫して配信している。なお紙のDMに関しては、コロナ禍により送付機会は減っているという。
ナーチャリング施策で大切にしているポイント
前述の通り、コロナ禍においてこれまで通りのリードジェネレーションが行えなくなり、ナーチャリングの重要性が高まったのは同社も同じだ。オフラインのセミナーやイベントが中止になったことでリード獲得の機会が激減し、セミナーやイベントをオンラインにシフトした後は、申し込み数は増えたものの当日不参加となる人も増えたため、顧客の興味・関心をいかに維持し続けられるかが重要になった。
そんな中、同社がナーチャリング施策において大切にしているポイントから、2つを抜粋して紹介しよう。
1つは、「コンテンツ設計」である。顧客が興味・関心を示しているテーマにおいてエンゲージをはかり、各テーマとの関連性の中で同社への理解促進を図っている。ナーチャリングコンテンツの基本的な設計思想として、ナーチャリングのフェーズを「初期」「中期」「後期」の3フェーズに分け、ぞれぞれで活用するコンテンツの方針を以下のように定めている。
フェーズ |
コンテンツ方針 |
コンテンツ例 |
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初期 |
「各興味・関心テーマの理解を深める情報」を提供 |
調査レポートなど |
中期 |
「各興味・関心テーマにSansan要素を加えた情報」を提供 |
インタビュー記事など |
後期 |
「各興味・関心テーマにおいてSansanが貢献できるポイント」を訴求 |
導入事例など |
もう1つは、「顧客データベースのメンテナンス」である。適した顧客に最適な情報を提供するためには、前述の通りコンテンツの設計も大切であるが、顧客に関する情報を集約・蓄積し、部門間を横断した正確かつ最新の顧客データベースを構築することも欠かせない。
同社は、クラウド名刺管理サービス「Sansan」の連携機能である「Sansan Data Hub」を活用することで、顧客データの正規化・統合に加え、外部情報ソース連携によるリッチ化を行っている。また、SFA・CRM、MAと連携し、各ツールで管理している顧客データを自動でクレンジング・名寄せを行うことで、データが重複している・最新化されていない、などのデータ品質の課題を解消し、最適な顧客データベースを構築している。
顧客データベースのメンテナンス図
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「どういうテーマに興味・関心があるのかを過去の行動データから推測してセグメント化し、なるべく興味に沿ったコミュニケーションを取れるようにしています」(大槻氏)
これらのポイントを重視しながら、顧客の興味・関心を醸成し、Webサイトの閲覧や資料ダウンロード、セミナーへの参加などの行動を促して、顧客の行動が基準値を超えると、架電対象として、ISにリード情報を受け渡すフローとなっている。
今後の展望
これまではクラウド名刺管理サービス「Sansan」に対するマーケティングが主だったが、今後は、クラウド請求書受領サービス「Bill One」、セミナー管理システム「Seminar One」をはじめとしたマルチプロダクトに対応するマーケティング施策を設計していくという。
コロナ禍において働き方が多様化したことにより、Sansanが掲げる「働き方を変えるDX」というコンセプトへの市場の興味・関心がより一層高まり、結果、デジタルトランスフォーメーション(DX)に対するニーズが大きくなるというプラスの効果も生まれた。特に大槻氏が担当するBill OneはバックオフィスのDXを支援する新しいプロダクトでもありユーザーの興味・関心も高いそうだ。
「これから本格的にBill Oneの戦略的なナーチャリング設計を行っていきます。名刺管理サービスのSansanにおけるナーチャリングで構築した基盤・ノウハウがあるので、完全にゼロからではないのですが、ターゲットや商材の特性も異なるので、改善を重ねてBill Oneに適したやり方を確立し、企業のDXに貢献したいと思います」と大槻氏は語った。